「小説真髄」を読んでいると、坪内逍遥の創作興味・過程が見えてくるような気がします。 翻訳、舞台製作、教科書作りなど、いろいろなことに関わって、偉人です。 坪内逍遥が作詞した「新曲浦島」の長唄を聞いてみました。 このYouTube番組では、女性が出演されていてかっこいいですし、音の強弱、テンポも演出されていて、現代音楽としても楽しめると思います。 いろいろ番組を拝見させていただきましたが、芝居の最初約20分、浦島太郎が登場する前の場面がほとんどの演目でした。 現代のアメリカにて、まず第一に小説の書き方で教えられることは、「どこから」の「誰」が主人公かを明確に詳細記載することです。 例えば、アメリカベストセラー作家 J. Michael Straczynski (J・マイケル・ストラジンスキー)の ”Becoming a Writer / Staying a Writer” を参照にすると、主人公は、ニューヨーク出身というだけでは足らず、 29th St.で生まれたOOからの移民で、OO語も話す、OOな家庭に生まれた人です。 などなど、読者が仮想体験できるくらい詳細を書かなくてはいけないとしています。 坪内逍遥も、「人情」(ありのままの心)の描写が大切だと言っていますので、人物描写は、現代と同じような見解です。 しかし、この「新曲浦島」の情景描写を聞いて、ふと思ったことは、「雨が降ってるよ~風がふいてる~」など細かく説明されているのですが、土地や、場所の指定が明確ではないなと。 渤海 (ぼっかい)中国北部の海の描写から、3つの島根(出雲国・石見国・隠岐)と歌詞にはありますが、平安時代の和歌では、川、山、浜の名前がしっかり組み込まれ、和歌を理解する重要な役割を担っていることを思うと、「新曲浦島」の場所は漠然としすぎているのではないかと。 本当に、「新曲浦島」は、昔話の浦島太郎の現代バージョンアップ版なのでしょうかと思ってしまったわけです。 昔話について、坪内逍遥は、 されば奇異譚と寓言の書(フヘイブル)とはその外形は同じうして、その内質は同じからず。前者は娯楽を目的とし、後者は風誡(ふうかい)を真相とす。フヘイブルの物語は、浮屠(ふと)氏のいはゆる方便にて、その眼目にあらざるから、その脚色も単純にて、只皮相をのみ閲(けみ)する時にはいと淡くして味なし。されども倩々玩読(つらつらがんどく)してその隠微をしも味ふときには、所謂寸鉄(すんてつ)人を殺す深妙の旨趣を見る事あり。「猿蟹合戦」の物語、又は「桃太郎」の昔話、「舌切雀」、「かちかち山」、皆フヘイブルの部類にして、その皮相なる物語はきはめて甲斐かいなきものに似たれど、その真相を見るに及びて頗(すこぶ)る深意ありと思はる。 「猿蟹合戦」などの昔話は、道徳心を養う読み物として意味のあるものだと思われるが、時代や語り手により、原型は多様に変化されているので、現代の読者には何を風刺しているか伝わらないし、物語芸術の価値は少ないだろうとしています。 なので、 かかれば奇異譚の作者ばらは、つとめて新奇の趣向を案じ、その脚色を複雑にし、その物語を長くものし、ますます時好に適するやう意匠をかまふることとなるべし。 時代によって、昔話を長くしたり、現代風にアレンジするなど工夫しないといけないだろうと書かれています。 「新曲浦島」は、最初の20分間が、現代バージョンアップ版として進化していると聞きました。 しかし、描写を細かくして、当時でも難解だと言われた歌詞に音楽を付けたからと言って、「バージョンアップ」といえるかなと。 J. Michael Straczynski (J・マイケル・ストラジンスキー) は、 It took years for me to understand that regardless of genre or medium, the audience is there for the characters, not the technical gimmick or the cool idea... 読者は、主人公と経験を共にしたくて本を読むのであって、派手な演出や、新しい視点を求めているわけではない。読者が共感する人間関係をサイエンスフィクション(SF)設定で再現することが大切だと。 「浦島太郎」も、一応、SF小説の部類に入るかなと。 読者が共感する人間関係は、浦島太郎と亀の友情や、乙姫様との結ばれない恋愛ともいえるでしょうか。 「新曲浦島」の発表は、 音楽や、長唄の演出により、日本現代文化かっこいい!という点では評価されています。 しかし、観客が、浦島太郎と一体になって、未知の世界を疑似体験したかというと、ちょっと疑問を感じてしまいます。もしかしたら、「かっこいい」以上に深いところまで繋がらなかったのではないかと思ってしまうのです。
0 Comments
Your comment will be posted after it is approved.
Leave a Reply. |
About NaokoArchives
June 2024
|